母と子の成長の物語 ー『宙ごはん』町田そのこ
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今回は、町田そのこさんの『宙ごはん』本屋大賞候補作の感想、紹介です。
町田そのこさんの作品は、2021年に「52ヘルツのクジラたち」が本屋大賞受賞しました。
作品
タイトル: 宙ごはん
著 者: 町田 そのこ
発 行: 小学館
あらすじ
宙(そら)には、生みの親の花野と育ての親の風海がいる。小学生に上がる頃、花野と住むことを選んだ宙ですが、花野は子供をあまりかまわず、家事はしない、仕事と恋人を中心とした生活を送っていた。母親の一番にはなれないと悩み悲しむ宙を支えていたのは、花野の後輩でレストランのシェフをしている佐伯。彼は幼い宙の食事係であり父親代わり。辛い時にいつもそばにあったのは温かいご飯であった。
感想
成長という言葉を強く意識感じる作品でした。”親も子供と共に成長する”というのが大きなテーマとなっていると思います。宙は花野と過ごすうち、さまざまな疑問を抱きます。親子とは、愛とは何だろうと。
人は過ごす環境や、関わる人々に影響を受け、常に変化し人格が形成されていくということを、作品を通し改めて感じました。そこで答えのない疑問が浮かぶわけです。心の成長とはどこに向かうのが正解なのか。ゴールはどこ。その先は?
環境
有名な熟語で”孟母三遷の教え”があります。子供の教育には環境が大きく影響するという意味です。墓地のそばに住むと子供が葬式の真似事をし、市場のそばへ引っ越せば、商人の真似事をした。最後に学校のそばへ引っ越した時、子供が礼儀作法の真似事をしたので、教育に一番適した場所だと母親は思ったことから。
宙は花野と住むことで日々影響を受けることになります。
「ひとと付き合うってどんなもんなのかなって思ったから」宙
好意のない相手とお付き合いをしてみたり、別れてみたり。子供は親を見て考え行動し、学ぶ。
「ひとはどうして別れるんだろう。その理由がどうしても分からないから、わたしは自分で経験してみたかった。そしたら、何か少しでも理解できるかと思ったの」宙
宙は花野の影響で、早くからたくさんの感情と向き合うこととなってしまい、他の子供達よりも大人びていきます。
子供らしい無邪気な幼少期を過ごしたようには思えず、悲しい気持ちになりました。
少し心理描写が宙の年齢と合っていないようにも感じました。
成長
花野は子供の愛し方がわからない母親です。幼少期に置いてきてしまった感情を、宙や佐伯から受け取り学んでいきます。
どれだけ歳を重ねても、知らない感情に対応することは難しいと思います。それらの感情の意味を知識として持っていたとしても、今の自分の価値観との相性があると思います。簡単に受け入れることは難しく時間のかかることかと思います。
親も一人の人間。辛いことがあれば乗り越えるのに時間がかかるし、新しいことに挑戦する時は、足がすくむこともあると思います。どんな時でも親はグッと踏ん張り子供にその姿を隠し続ける。そして子供は成長とともに知ることになる親の強がりに偉大さを感じるのかもしれません。
赦さなくていい
前回読んだ町田さんの作品「ぎょらん」とに共通する「罪を償うこと」がテーマのお話が含まれていました。
「亡くなった人の家族はね、失った辛さや寂しさを乗り越えるのに精いっぱいなんだ。許す余裕なんてないし、そもそも赦す必要なんてない。だってそうでしょう?
・・・・どうしてその罪まで許してあげなくちゃいけないの」 花野
許しを請う謝罪は時に暴力になるということ。
まとめ
一人の幼い少女とその母親の成長を描いた物語でした。
私は私のものでありオリジナルだとそう思って生きています。
だけどこれまでに自分が誰と出会って、どんな心境の変化があって、どんな環境で何を得たのかとか、振り返ってみるのも面白いかもしれません。その積み重ね(経験)が今を作っているのだと改めて認識するきっかけを、この作品から貰いました。
自分がわからなくなった時は、振り返るのもいいかもしれません。
"過去を振り返るな"というけれど、迷子になった時は自分が歩んできた地図をなぞることで、何か大切なことを思い出すきっかけになるのかなと思います。
今回の読書の相棒
今回はゆずの香りです。小さい頃、祖母がゆずの皮をネットに入れてお風呂に入れてくれました。私にとってゆずの香りはリラックス。